人はおろか、野良猫の気配さえも感じられない夜更け。
ふとカーテンの隙間より夜を覗くと、曇りガラスの向こうに、ぼんやりと滲む月光が一つ。
真冬の澄んだ大気が夜の中を巡り、微かな星の瞬きでさえ遮るものはない。
暗い海に浮かぶ客船。
その船室にぼんやりと揺れていそうな、暖かいライトを一つ灯して、
一人静かに夜の波に身を委ねてみる。
夜の波の上、これは何かに似ていると、不意に感じる。
それは、孤独ではない。
例えるならば、恋人と眠っている時間。ふと真夜中に、自分だけ目覚めてしまい、
暗闇の中で夜の音を採集しているかの様な感覚。
どんな夢を見ているのだろうかと考えながら、密かにその夢を盗もうとしている様な感覚。
けれどこの感覚を目で見える様、言葉でだけで完璧に表現する事は、きっと不可能だろう。
それは吹き付ける風やこの声の姿を、写真の世界に納める事が出来ないと言う事に酷似して
いるのだから。
ひっそりとして、昼間とは裏腹に時が流れる。
皆はどこへ潜っただろうか。
この夜という名の海の中、皆はどこで眠っているのだろうか。
貝は気泡を放ちながら、永遠の夢を抱いているのだろうか・・・。
こんな夜は、蜂蜜を落としたクランベリーティーがよく似合う。
音も無く静かに夜は更け、静寂の波に揺られてぽつり、時の波紋を広げてゆく。
そうして、真紅の海に、朧気な夢と月の輪郭を残して。
知らずのうちに眠りに落ちれば、
ティーカップの縁に腰掛けた小さな悪魔が、ニヤリと笑っているかも知れない。
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